薬剤師

【授乳中の人への服薬指導】①実際と正直な気持ち

こんにちは!
0歳育児中のたつな(@tatsuna11)です。
(詳しいプロフィールはこちら

さて、今回のテーマは「授乳中の人への服薬指導 in 調剤薬局

薬剤師になりたての頃、こんな風に思っていました。

昔のたつな
昔のたつな
授乳してる人の服薬指導ってどうしたらいいの??
どんな声かけしたらいいのかさっぱりわからない…

たまーに出会って服薬指導するときも、あまり踏み込まないようにして、当たり障りない会話をしていました。

新人・若手薬剤師の方で、同じような人も多いんじゃないでしょうか?

今回、そんな方へ向けて、授乳してる人の服用指導に自信がもてるような記事を作りました。

今、まさに授乳真っ最中ですが、

たつな
たつな
授乳、思ってたよりはるかにしんどい
っていうか、これは経験したり誰かに教えてもらわないとわからない

と思ったからです。

この記事では、授乳の実際とその気持ちものすごく正直に書いています。
(主観が多いので、そのつもりで読んで頂けると助かります)

昔の私のように授乳してる人の服薬指導どうしたらいいんだ!?って困っている人の役に立てたら嬉しいです。

今回は、

①実際と正直な気持ち
②飲んで大丈夫?の確認・指導のポイント

の2本立てでお届け。
(ものすごいボリュームになってしまったので、分割しました)

まず、①実際と正直な気持ち、いってみましょう!

※妊娠と授乳は考え方が違うので、今回は授乳に限った話とお考えください。
※この記事では
 ・調剤薬局でよく出会う
 ・比較的軽度な体調不良
 ・例:風邪、花粉症など

 の服薬指導を想定しています。
※慢性疾患・授乳を中断する有益性が明らかに上、という場合は、この記事の内容が当てはまらないかもしれません。

【この記事を読むと】

  • 授乳してる人の様子と気持ちがなんとなくわかる
    →服薬指導を自信もって行える
    →授乳中の人が安心して薬を飲むことができる

【こんな人へおすすめ】

  • 授乳してる人の気持ちなんて、そんなのわからないよ
  • 授乳してる人への服薬指導、どうしたらいいか悩んでいる
  • 問診表に「授乳中」ってマルがついてると、正直戸惑ってしまう
  • 授乳中の人にも自信をもって服薬指導をしたい

薬剤師へまずのメッセージ

まず、薬剤師みんなに知ってほしいのはこの2つ。

◆薬を飲んじゃだめだってみんな我慢している
◆「授乳を控えて」「授乳を一時的にやめて」は言わないでほしい

薬を飲んじゃだめだってみんな我慢している

まず、声を大にして言いたい。

たつな
たつな
授乳してても薬を飲める!
つらかったら薬を使おう!
(もちろん、ものによるからちゃんと確認しよう)
母A
母A
授乳してるから薬を飲んじゃいけない
つらいけど、我慢するしかない…

って、母たちがどんなに多いか。

残念なことに、こういったことがしばしば起きているようです。

【風邪ひいて内科へ】
医師:授乳中だと出せる薬ないよ。なんで病院来たの?

【ドラッグストアにて】
薬剤師:授乳中はお薬飲まずに我慢するしかないですね

極端な例かもしれませんが、

授乳中=薬飲めない

という考えがまだまだ多いのが実際です。

なので、ここは薬剤師の役目です。

・授乳中でも薬を飲める
・辛いときは薬を使おう
・確認は専門家に頼もう

みんなで伝えていきたいです。

「授乳を控えて」「授乳を一時的にやめて」は言わないでほしい

心から叫びます。

たつな
たつな
授乳を簡単にやめられたら、こんなに苦労しない!!!

軽いノリで「授乳を控える・少し中断する」なんてことは、ぶっちゃけ無理です。

たつな
たつな
授乳をやめる不利益が大きすぎる

もちろん、授乳を控えるべき時もある。

けど、

・薬を飲んで得られる利益
・授乳を中断する不利益

のバランスを考えた時、授乳を中断する不利益が上回ることが多いです。
※調剤薬局でよく出会う、比較的軽度な体調不良(例:風邪、花粉症など)の場合

後で詳しく書きますが、「授乳を控えて」「一時的にやめて」はあまり言ってほしくないフレーズ。

「授乳を続けつつ、薬もちゃんと飲む」が基本スタンスと考えています。

母乳・ミルクの基礎知識

実際にやってみるまで母乳・ミルクのことなんてまっったく知りませんでした
特に、新人・若手薬剤師の方には未知の世界だろうと思います。
(っていうか、私がそうでした…)

昔のたつな
昔のたつな
母乳?
ミルク?
そもそもどう違うの?
授乳やめてミルクでもいいんじゃん?
そもそも1日何回飲むの?

などなどなど。

このあたりの疑問に答えるべく、まずは母乳・ミルクの基礎知識をざっくりご説明したいと思います。

乳児(0歳児)の栄養のとりかた

産まれたての赤子は、まず母乳・ミルクですくすくと育っていきます。

だいたいこんな感じのスケジュールで進んでいきます。
(私の感想も入っています)

【0~4か月】
母乳・ミルクのみで生きていく
母乳・ミルクがないと本当に死ぬので、プレッシャーが半端ない
◆時間間隔は1~3時間
10~20回/日(もしくはそれ以上)
◆朝夜関係ない
◆授乳に慣れてないので手間取る。1授乳40分とかかかる
◆合間にオムツ替え、沐浴、着替え、ぐずりの対応をこなす
3時間まとまって寝れたら奇跡
◆出産直後で体がガタガタの中、このスケジュールをこなすのは死ぬほどつらい
(よく”交通事故で全治1~2ヶ月”の怪我と例えられます)

【5~6か月】
◆育児に慣れてきて、少し落ち着く頃(※人による)
◆授乳間隔が3時間おきくらいに落ち着いてくる(※人による)
10回前後/日(※個人差が大きい。欲しがるだけあげる)
◆赤子によっては、昼夜の区別がついてくる
◆夜に6時間などまとまって寝る子もいる
離乳食開始。1日1回。
離乳食作りめんどくさい(手間かかる割にほんの少ししか食べない。赤子によっては全く食べなく心が折れる)
◆まだまだ母乳・ミルクが生命線

【7~8ヶ月】
離乳食1日2回へ増量
10回前後/日(※個人差が大きい。欲しがるだけあげる)
◆あくまで食べる練習なので、ほとんどの栄養源は母乳・ミルク
◆子によっては夜泣きピーク
◆寝かしつけ最強アイテム:母乳・ミルク(※効かない子もいる)
離乳食作りめんどくさい(手間かかる以下略)

【9~11か月】
離乳食1日3回へ増量
◆ようやく、母乳・ミルク/離乳食の割合が逆転してくる
◆母乳・ミルクの回数が減る人もいる
離乳食作りめんどくさい(手間かかる以下略)

【1歳~】
◆母乳・ミルクをやめる人がでてくる
◆離乳食の仕上げ。大人と同じようなものが食べられるようになってくる
2~4歳が卒乳の目安(個人差がめちゃくちゃでかい。いつ卒乳するかは母が決めることなので、外野があれこれ言わない)

※赤子の成長はとても個人差が大きいので、あくまで目安と考えてください。

【参考】
◆マンガでわかる離乳食のお悩み解決BOOK(あらいぴろよ・上田玲子/主婦の友社)
◆新装版 産婦人科医ママと小児科医ママのらんちん授乳BOOK(栄美玄・森戸やすみ/内外出版社)

母乳・ミルクの良い点悪い点

ではでは、母乳・ミルクの特徴はどんなもんでしょう?

それぞれの良い点・悪い点をまとめました。

※ここは私の主観がかなり入っています。

母乳の良い点・悪い点

【良い点】
◆ワンオペ時は母乳の方が楽
◆洋服をめくるだけで与えられる簡便さ
◆お金かからない
◆産後、子宮の回復を助ける
◆乳癌、卵巣癌、子宮体癌、骨粗鬆症のリスク減
◆赤ちゃんへの免疫移行
◆赤ちゃんの神経発達を促す

【悪い点】
◆疲れる。生気すいとられる。
◆痛い
◆赤子重い
◆肩こる
◆首がつらい
◆とても喉が渇く
◆母でないと行えない
◆授乳中は動けないので、かなりの時間を拘束される

(痛みや肩こりなどは、授乳姿勢で軽減できるようです。
あまり研究せず我流でやっていたのが良くなかったかなと思っています)

【参考】日経DI 2017.02 自信が持てる!妊婦と授乳婦の服薬指導

ミルクの良い点・悪い点

【良い点】
◆2オペ時は圧倒的にミルクが楽
◆ミルクの方が腹持ちがいい(らしい)
◆体が楽。疲れない。肩こらない。痛くない。
◆うまく哺乳瓶セッティングできれば、子から離れられる
◆決まった時間に決まった用量を与えればいいので、頭脳労働を減らせる
母でなくてもあげられる(最重要)

【悪い点】
◆作るのめんどくさい
◆冷ます間が結構つらい
◆哺乳瓶洗うのめんどくさい
◆哺乳瓶の消毒めんどくさい
◆お金かかる
◆子によっては、哺乳瓶とおっぱいの混乱が起きて大変なことになる

(ちょっと話がそれますが、やっと日本でも液体ミルクが解禁になります。
発売されればミルクのハードルがかなり下がります)

ざっくりまとめると、

【授乳】
しんどいけど、ワンオペなら授乳の圧勝
代わりきかないのが最大の欠点

【ミルク】
正直めんどくさいけど、体が楽
誰でもできるのは本当に素晴らしい

という感じです。
(母親の性格でだいぶ意見が変わりますので、あくまで私の考えと受け止めてください)

ここの最大のポイントは、

たつな
たつな
母親にとって授乳は負担

ということ。

ツイッターや育児ブログには、

・授乳つらい
・授乳やめたい
・もう卒乳してもいいかな?
・完ミにしちゃってもいいかな?
・完母で頑張ってきたけどもう無理。ミルク使ってやる!

などなど、授乳への苦悩がたくさん書かれています。

私も、

たつな
たつな
しなくていいんだったら、もう辞めてやる!!

って何度思ったことか。

次の項目で詳しく書きますが、母乳・ミルクの選択にはものすごい苦悩が潜んでいますので、慎重に扱ってもらえたらなと思います。

どっちを選ぶ?基本は母乳推奨だけど…

母乳・ミルクをどのように扱うかは人それぞれ。
やり方はこの3つに分かれます。

◆完全母乳 → 完母
◆母乳ミルク混合 → 混合
◆完全ミルク → 完ミ

母乳のメリットが大きいので、基本は母乳育児が推奨されています。

ですが、どの選択をするかは本当に人それぞれ。
家庭の事情や考え方、周りの圧力などでで変わってくるので、正解はありません。
途中で変わったりもしますしね。
(ちなみに、私は完母寄りの混合です)

で、ですね。
ここでお伝えしたいのは、「どっちがいいなんて一概に言えない」ということ。

たつな
たつな
ここは沼が深いんです…

ここはですね、ほんっっとうに沼が深いんです。
この3択には、母たちの血と涙となんというか、もういろんなものが潜んでいます。

たつな
たつな
授乳始めるまで知らなかった…
産む前に誰かに教えてもらいたかった…

繰り返しになりますが、母乳?ミルク?の選択にはものすごい苦悩が潜んでいます。
「免疫移行とかあるんで母乳の方がいいですよ~」なんて気軽にアドバイスした日には、一生恨まれてもおかしくありません。
大袈裟ではなくほんとに。

・病気や服薬の都合で母乳をあげられない
・赤子の体重増加が思わしくないので、ミルクも使う
・赤子が母乳(おっぱい)を拒否するので、完ミ
・母親がつぶれそうになってミルクを使う(めちゃくちゃよくある)
・哺乳瓶を受け付けてくれなくて、死ぬ思いで完母を続ける

本当に、様々な、それぞれの事情があります。

それプラス、周りからの「母乳がいいわよ~」の圧力
(特に上の世代の女性・理解の薄い男性から)

男性の方、

・母乳の方がメリットあるならそうしたら?
・お金かからないなら母乳がいいな~

なんて気軽に思ったりしていません?

それ、彼女・奥さんに言ったらビンタされますよ?

どのように母乳・ミルクを選ぶかは、

・母親の体質、価値観、考え方
・夫、両祖父母の価値観、考え方、圧力
・夫がどれくらい育児を担えるか?
・祖父母たちがどれくらい助けてくれるか?
・他、助けてくれる人がいるか?

など、様々な要素が絡み合った上、主育児者(多くの場合は母親)が決めることです。

もし、服薬指導の途中で「母乳・ミルクどっちがいい?」と話に発展したとしたら、気軽に踏み込むのはおすすめしません。

そんな話になった場合は、

・近くのママ(パパ)薬剤師に助けを求める
・自治体の育児相談窓口を教える(保健センター、子育て包括センターなど。事前に知っておくと吉)

の対応がおすすめです。

ここは適切に対応できる人につなぎましょう。

授乳一時中断の不利益

添付文書によく書いてある

「授乳中の婦人に投与することを避け、やむをえず投与する場合には授乳を中止させること」

という文言。
(これについては②で詳しく説明します)

ですが、

たつな
たつな
授乳をやめるなんて、そんな簡単にできない

というのが授乳の実際です。

もし、夫に気軽に「大変なら授乳もうやめちゃえば?」なんて言われた日には本気ではっ倒します。

授乳はしんどいですが、そんなに簡単に、ちょっとだけ辞められるもんではありません。

たつな
たつな
簡単に中断できたらこんなに苦労しない!!!

…失礼、あつくなりました。

ということで、授乳一時中断の不利益についてまとめました。

【授乳一時中断の不利益】
◆しばらくやめると出なくなる
◆張って痛い&乳腺炎のリスク
◆寝かしつけ・ぐずりの対応に困る
◆乳首混乱

数日やめると出なくなる

最大の不利益がこれ。

母乳は出た分また作る仕組みなので、しばらくやめたら出なくなります。(期間は人によりますが…)

「薬のために数日授乳をやめたら、出なくなってしまった」という事例は実際起きていることです。

軽い気持ちで授乳を中断したら、その後の母乳育児ができなくなってしまうかもしれない。

これを知らずに、気軽に「薬を飲む間は授乳控えてくださいね」と言うのは、いかがなものかと思います。

張って痛い&乳腺炎のリスク

授乳から時間がたつと、だんだん母乳がたまって張って重たくなります。

その段階で吸われないと、今度は痛くなってきます。

行き場をなくした母乳が溜まって、石みたいに硬くなります。

で、場合によって乳腺炎に移行します。

私は幸いまだやっていませんが、めちゃくちゃつらいらしいです。

【乳腺炎の症状】
◆乳房の痛み(洋服がすれるだけで痛い、痛くて眠れない、など)
◆高熱
◆だるさ
◆頭痛 など
※場合によって抗生剤の服用を行う

乳腺炎は、自分がしんどいだけでなく、赤子の世話をほっぽりだせないつらさの2つを抱えることになり、相当な負担になります。
(助けてくれる誰かがいないと、本当に詰みます)

なので、時間間隔をむやみに開けないというのは、授乳の重要ポイントです。

寝かしつけ・ぐずりの対応に困る

赤ちゃん(子ども)は、眠くなるとなぜがぐずります。

この対応が結構つらくてしんどい。

そんな時の最強アイテムは授乳です。

ぎゃーー!!と泣き叫んでいる子にお乳を差し出すだけで静かになり、そのまま寝落ちすることだってあります。

ぐずっている時も同じです。

咥えると安心するのか、気分が切り替わるのか、機嫌が良くなることが多いです。

寝かしつけ・ぐずりの対応に、授乳はものすごく有効。

もし、授乳を中断して、となったら育児負担がめちゃくちゃ増えるので、かなり絶望します。

(ミルクでも同様の効果が得られますが、作る手間があるので、授乳の方が楽でした)

乳首混乱

なんのこっちゃ?って感じですよね。。

産んで始めて知ったのですが、哺乳瓶とおっぱいの混乱です。

咥えた感触・出具合など、やはり違うようで、どちらかに慣れるとどちらかがうまくいかなくなったりします。

・差し出しても口を開けない
・咥えたとしても飲まない
・差し出しただけで泣き叫ぶ

などなど。

この対応も、結構しんどいそうです。

母乳を拒否されるのは、母親の自己否定や後悔に繋がることが多いので、できるならば起きてほしくない。

「哺乳瓶⇔母乳」の切り替えは、主育児者(主に母親)の意見を尊重して、慎重にやる必要があります。

私たちの本音

ということをふまえて、

たつな
たつな
母乳育児がうまくいってるなら、ペースを乱したくない
出来るだけ邪魔しないでほしい!

が私たち授乳婦の本音です。

こういった事情を知らずに、薬剤師(や医療従事者)が「できるなら授乳を控えてくださいね」と気軽に指導するのは、ちょっとどうなのかな?と思います。

「授乳を中断して薬を飲むか?」は、

・薬を飲んで得られる利益
・授乳を中断する不利益

この2つをよくよく考えて判断しなければいけません。

まとめ

この記事で伝えたかったのはこの4つ。

◆授乳中でも薬を飲める
◆授乳はものすごく負担
◆母乳・ミルクの扱いの悩ましさ、沼の深さ
◆授乳は簡単にやめられない

実際その立場になるまで、こういったことを全く知らなかったので、

たつな
たつな
産む前に誰か教えて!

ってめちゃくちゃ思いました。

授乳はデリケートなことなので、よっぽど近しい人でないとしっかり聞けないと思います。

ですので、ここでは出来るだけ正直な気持ちを書くよう心掛けました。

私の体験がベースなので、違う捉え方の人もいるかもしれませんが、大筋は多くの母親が感じていることだと思います。

授乳って想像以上にしんどいし、いろんな複雑かつデリケートな思いがものすごくつまっています。

ここに書いてあることを少しでもイメージしながら、服薬指導にのぞんでもらえたら嬉しいです。

たつな
たつな
ただ今、②飲んで大丈夫かの確認・指導のポイントを準備中です。
1月中にはアップしたいと思っています…。